第五話 モンゴル国営放送集金人

 ある日曜日の午後、配属先の副所長から連絡があった。それは大家さんの親戚が自宅に来て
食器棚の入れ替えの下見に来るということだった。この家はモンゴル日本センターの副所長(モン
ゴル人)の友人の持ち物で、その友人が外国にいっているのでその間入居させてもらうことになって
いた。電話では午後2時過ぎにくるということであったので、TV(NHK国際放送)を見ながら待って
いた。

 2時をかなり過ぎたころ、ピンポーンとチャイムがなった。大家の親戚と思ってドアを開けた。
アタッシュケースを持った男が立っていた。男は身分証明書を見せる。何かへんだなと思いつつ、
"Are you Landlord's relations?"と尋ねたが、なにやらノートを取り出して、私の部屋番号3らしき
箇所を指差してモンゴル語を喋っている。ノートは表になっていて、番号や日付が入っている。
そして領収証のようなものを見せる。3300Tg(トゥグルク:モンゴルの通貨単位現在100円=1100
Tg)と書いてあった。モンゴル語が話せないので断るに断れず支払った。男は、金を受け取ると隣の
家のドアの前に立ち、呼び鈴を鳴らしてた。結局、大家の親戚は3時を過ぎても姿を見せず、私は
所要があったので自宅を出た。

 翌日、モンゴルのベテランの同僚Mさんに領収証を見せて、この紙は何を意味しているのか尋ねた。
答えは「末岡さん、国営放送の聴取料の領収証ですよ。」であった。

 私はさらに、これは毎月支払わなければならないのか訊いた。答えは3か月分ということであった。
モンゴルの国営放送は1世帯当たり月1100TG(100円)集めるようだ。それが現地の人にとって高い
のか安いのかわからない。私は、モンゴル国営放送を見たことがないので釈然としなかった。

 しかし、集金人もなかなかやるもんだと思った。なにせモンゴル語が喋れない人間からも集金する
のだから。最近不払いにあたふたしているNHKだが、日本語の判らない外国人にも強引に集金する
くらいのことをやらないと聴取料をとれないのではないか?

 今度集金人が来た時は、モンゴル語を覚えてこう言ってやろうと思っている。「俺は、モンゴル語が
理解できない。日本語のNHKしか見ていないから払わんぞ。」

「何言ってるんだモンゴル語を話してるではないか。」と言い返されたりするかもしれないが・・・。
 

これがモンゴル国営放送の聴取料領収証